聞こえない子どもの読み書きの力は、聴覚障害教育の現場が直面している課題の一つです。
我が子が多彩な世界を案内してくれる本を読み、自分の思考や感情を書き表すことができるようになることを願わない保護者はいません。
ろう学校の小学部では、小学校の教育に準ずる教育を施すことが必要であると法令に定められ、1年生から教科書を使った授業が行われています。
読み書きの力が発達するのは、その小学部での教育によるものだと思われがちですが、実際には話し言葉の発達と同様に、その基礎は乳幼児期から始まります。
乳幼児の心身を発達させるために必要不可欠な遊びを中心とした環境構成の中で、絵本の読み聞かせをしたり、クレヨンで一緒に自由に落書きしたりしながら読み書きを獲得していくこの時期を「萌芽的読み書きの発達期」といいます。また、「プレリテラシー」とも呼ばれ、子ども自身を取り巻く読み書きの環境を共に探求するような関わり方は、その後の読み書きの発達に大いに影響を与えます。
弊塾の「幼児のシコウ科」では、萌芽的読み書きの発達期において、視覚を中心としたアプローチを取り入れています。
例えば、絵本を介した言語活動では、手話による読み聞かせのみならず、子どもの思考を深めるための発問や文字への興味を喚起する働きかけなど、様々な工夫を凝らしています。
また、他の教材についても、子どもの興味・関心に応じて動物や食べ物などの玩具を活用し、文字カードとのマッチングによる言語指導を行なっています。具体的には、子どもの認知能力に応じて、玩具や写真、イラスト、指文字、文字などの視覚的記号を組み合わせ、スモールステップで進めています。言語理解の基礎となるマッチングは、萌芽的読み書きにおいて重要な役割を果たします。
他にも、「釣り」や「あかまるトランプ」など、子どもの興味・関心を引き出す教材を使って遊びながら、文字の存在に気づかせたり、思考を促したりしています。
このように子どもと他者(保護者、先生など)、そして注意を共有する対象物(絵本、玩具など)の三つの関係性を示す三項関係において、様々な遊びを通じて意図的かつ計画的な支援・指導を行えば、子どもの、あそびを楽しみながら文字を読んだり書いたりしたい、という気持ちが育ちます。