ろう重複児の実態に応じたコミュニケーションを身につけるために~坂戸ろう学園にて~

先日1月24日に、埼玉県立特別支援学校坂戸ろう学園で、
ろう重複障害教育に携わっている先生方を対象に「ろう重複児の実態に応じたコミュニケーション」をテーマにお話をさせていただきました。
自分がろう学校教員の立場だったら、教育現場で活かせられるような具体的な実践とそれを裏付ける理論を知りたいと思いますので、内容を下記テーマに絞って進めました。

・コミュニケーションの定義と目的
・コミュニケーションの手段
・ろう重複障害者とのコミュニケーションの実際
・コミュニケーションの発達段階・言語の発達段階
・コミュニケーションの基礎・ことばの表出行動を拡大していく指導
・言語獲得の基礎力の育成
・発信が分かりにくい子どもに対する注意点とその考え方
・視覚的教材の活用
・教育実践の紹介

松元泰英の『かゆいところに手が届く重度重複障害児教育』を参考に、コミュニケーションの基礎を育むための必要な手立てを紹介しました。


ろう重複障害児は、一般的にコミュニケーションに困難さがあり、表出があってもそれが伝わりにくかったり、相手の手話の模倣を繰り返したりするケースが少なくないと言われています。私自身、そのような子どもの担任を長年受け持った経験があります。
どんな子どもであっても、対人関係や学習の基盤である愛着がしっかり育っていれば必ず、自分の思いや考えを伝えたい、相手の意図を知りたい、などのコミュニケーション意欲につながります。これは障害の有無に関係なく、どの子どもでも大事なことだと考えます。
愛着という心の絆が育まれていく中で芽生えてくるコミュニケーション意欲と共にその子なりの表出が見られるようになりますが、その意図を汲み取ることが難しかったりすることがあります。その時の考え方として、私は以下の五点を大事にしています。


また、模倣が多い子どもについては色々な手立てがありますが、今回は「期待反応の引き出し方」を紹介しました。
期待反応とは、目的とする事象が目の前に現れる前や期待することが始まる前に、それを予測し期待する能力を意味します。つまり、
「どんなことが起きるんだろう?」
と、わくわくするような展開を作ることで子どもの反応を引き出すということです。
具体的にはくじや黒ひげ危機一髪などが挙げられますが、ここでは絵本「ぴんぽーん」を活用した期待反応の引き出し方の事例を紹介しました。
(この時の子どもの様子は保護者様からご了承を得た上での紹介です。保護者様、どうもありがとうございました。)
この絵本は、色々な形のインターホンがあり、それを押すたびに馬やあひるなどの動物が出てきます。また、「ここは誰のおうちかな?」と聞く場面もあり、子どもの考えを引き出そうとする効果のある絵本でもあります。
最初のうちは、子どもからの表出をなかなか引き出せず、私から「馬かな?あひるかな?」と手話でヒントを与えました。
そうするとその手話の模倣から始まり、読み聞かせを続けるうちに、インターホンを押すとどんな動物が出てくるかなという期待感がその子どもの中で生まれたようで、「かえる」と、自分なりの予想を伝えられるようになりました。
コミュニケーションの目的として、
「情報を正しく伝えること」
「相手に伝えたい、伝えようとする意欲」
がありますが、先の場面では、「かえる」という情報を手話で私に伝えようとする意欲を見せてくれました。

1時間という短い時間での講演となりましたが、このような貴重な機会をいただいた坂戸ろう学園の先生方に感謝です。ありがとうございました。

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